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まさねえちゃんには もう明日がこない


そらやかいには もうまさねえちゃんとの明日がこない


健太にいちゃんには もうまさねえちゃんとの明日がこない





38年間を精一杯駆け抜けた、まさねえちゃんの明日がこなくなって、4度目の桜が咲いた







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ガラガラガラ  ザッパーン!


「何っ?」


目覚まし時計もまだ鳴らない午前6時。

眠たい目を擦りながら窓を開けると、お隣が熱心に家の外壁を磨いている。

昨日越して来たばかりのまさねえちゃんだ。


 「おはよう!みっちゃん、起こしちゃった?ごめんね」


閑光弾のようなまさねえちゃんの笑った顔と朝日をもろにくらってしまった私は、結局2度寝することもできず、いつもより早く起きる羽目になってしまった。

眠たい目を擦りながら一階に降りると、母も私と同じく大きな音で目が覚めてしまったらしく、いつもより早めに朝食を作っていた。


 「早すぎ・・・大体、引っ越してきた次の日に、外壁掃除する?年末でもあるまいし!お母ちゃんのせいよ!」


何よりも心地よい、朝の2度寝タイムをも奪われるという、やり場のない怒りを、母にぶつけてみたりもしたが、

 「まさねえちゃんは、几帳面だからね。毎日が大掃除から始まるのよ。美智子も少しは見習わないと!そういえば最近、部屋掃除した?同じ女の子でこうも違うものかね、全く・・・」


 「・・・やぶへび」

結局、不愉快さが倍増しただけに終リ、あきらめて早めの出勤準備に取り掛かることにした。


それからというもの、私の幸せな2度寝タイムは失われ、毎朝強制的早起きの日々が続いた。




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私たち家族は、数年前に借家暮らしから、マイホーム購入で引っ越したのだが、まさねえちゃんは、その借家暮らしのときのお隣さんだ。

新婚で借家に入ってきたまさねえちゃんは、私の母を、自分のもう一人のお母さんだと慕っていた。

まさねえちゃんは、お世辞にも美人とはいえないが、とにかくいつも賑やかで、元気が良くて、何かの楽器のような甲高い笑い声が印象的な明るい女性だ。

母との年の差よりも、私との年の差のほうが小さいこともあり、母の友人というよりは、うるさい姉貴くらいに思っていた。

まさねえちゃんのだんなさんである健太兄ちゃんは、まさねえちゃんとは対照的に、物静かで無口な男前で、借家の隣に越してきたときには、子供ながらに淡い恋心を抱き、まさねえちゃんに強いライバル心を持ったのを、なんとなくだが覚えている。


当時新婚さんだったまさねえちゃんのお腹はすでに大きく、越してきてまもなく男の子を出産。

その4年後には、女の子も誕生した。

男の子の名前は、海と書いてカイ、女の子は空と書いてソラ。

かいは、お兄ちゃんそっくりの、無口でおとなしい男の子だった。

私たちがマイホームを購入し引越ししたのは、かいが小学生になったくらいだったが、それまで私は、自分の家のように、まさねえちゃんの家で遊んでいた。

私たちが引っ越してしまった後、まさねえちゃんは、7年かけて、こつこつとお金をため、念願のお隣の家を購入し、昨日越してきたというわけだ。

私としても当然懐かしく、少しうれしかったものの、当時の自分以上に大きくなっているそらやかいに対しても、どう接したらよいかわからず戸惑っていた。

まさねえちゃんは、私のそんな戸惑いも、私が大人になっていることも、全くお構いなしで、当時のまま接してきた。

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朝は、まさねえちゃんの笑い声と大きな掃除の音で強制的に早起き。
仕事から帰ると、まさねえちゃんがうちの玄関で母と雑談していて、いつも絡まれる。
朝から晩まで、まさねえちゃんの騒音を聞かない日はなかった。

そんな日々が始まってまもなくの頃、
「またそこで騒いでるんだろうな・・」
と、少し憂鬱な気持ちを抱きつつ帰宅した私は、絡まれないようそそくさと部屋に上がったが、玄関口の雰囲気が、いつもと違うことに気づき、そっと戻り、聞き耳を立てた。

「そらもかいもまだまだ子供なのに、今死ぬわけには行かない」

今まで聞いたこともない弱々しいまさねえちゃんの声が聞こえた。

「切除したら大丈夫よ。早くに見つかったんだし、死ぬなんてこと絶対無いから!」

まさねえちゃんは、初期の乳がんと宣告されたらしく、とにかく不安な気持ちをどうにかしたくて、母のところに来たようだった。

次の日からまさねえちゃんは最初の入院をした。

まさねえちゃんの親が、入院中1度しか来なかったにもかかわらず、母は毎日通いつめた。
自分も子宮ガンを経験していた母は、まさねえちゃんと一緒に病院からの説明も熱心に聞き、
「とにかく、絶対再発しないよう、早めに切除をしてやって欲しい」
と訴えていた。
病院側は、まさねえちゃんがまだ若いこともあり、切除には消極的で、再三の母からの訴えを無視し、かなり時間が経過してから、癌部分ぎりぎりの部分切除を行なったようだった。

その手術ですべてを取りきれなかったようで、数日後、結局右の乳房すべてを切除する手術をもう一度行った。

結局無駄に2度も痛い思いをしただけだと、母は泣きながら怒っていたが、

「もう終わったから。
お母ちゃんホントにありがとね」

と、逆に母をなだめる元気なまさねえちゃんが戻ってきた。

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戻ってきたまさねえちゃんは、今まで以上に元気いっぱいで、相変わらず毎朝の外壁掃除と私の帰宅時間に行われる母との座談会が再開されたが、長くは続かなかった。

若いうちの癌だったことや、最初の摘出が遅れたためか、まさねえちゃんが、2度目の入院をしなければならなくなるのには、1年とかからなかった。

「 ブラジャー使わなくてすむから楽チンでいいわ 」

2度目の手術で、もう片方の乳房も摘出し、35歳の若さで両方の胸のふくらみをなくしたまさねえちゃんは、いつものように明るい笑顔でそう言ってのけた。

2度目の入院からも戻ってきたまさねえちゃんは、やはり何事もなかったようにいつもと変わらない人間騒音のまさねえちゃんのままだった。

節約家のまさねえちゃんは、いくら薦めても

「パットなんてもったいないだけだから」

と、まっ平らになってしまった胸で、本当にブラも使わなくなっていたのだが、しばらくすぎた頃、突然、洋服の上からふくらみが確認できるようになっていた。

いつもの母との座談会中だったまさねえちゃんの胸のふくらみに、つい目がいってしまった私に、

「あ、気づいた?破れたストッキングつめてみたの。
とる前よりおっきいでしょ!」

と、ケラケラ笑うまさねえちゃんに

「急にどうしたの?」

と尋ねると

「そらがね、恥ずかしいって言って、口きいてくれなかったから・・・」

と少し寂しい顔でまさねえちゃんが笑った。

そらの参観日に、いつものまんまで出かけたまさねえちゃんを見た友達に、

「そらちゃん、お父さんがきたよ」

とからかわれたらしい。

まだまだ女である年齢のまさねえちゃんも、本当は気にしていないはずはない。

なんともない顔はしていたが、どれほどか傷ついたかと思うと、今でも心が痛い。

この件以降は、3度にもわたる摘出手術を受け、完全に乳房をなくしたといったことが、現実ではなかったのではと思うほど、まさねえちゃんは明るく賑やかで、精力的に毎日を過ごしていた。

もちろん日々の日課の早朝外壁掃除と母との座談会も健在。

さらにはそらの学校のPTA会長まで引き受け、癌になる前よりも活動的になっていた。

その頃、私の家とまさねえちゃんの家のちょうど真ん中あたりの向かいに一本だけある桜の木に、今年2度目となる季節はずれの桜が咲いた。

秋真っ只中だというのに小さな花を咲かせた桜を、早朝の外壁掃除中に見つけたまさねえちゃんが大騒ぎしていた。

そんなまさねえちゃんを見て、母も私も、そらやかいや健太兄ちゃんも、おそらく本人も、大変な病気を克服した事実は忘れかけていた。

だがしばらくして、まさねえちゃんは、目が見えづらい、おかしいと不調を訴え始めた。

2度目の入院からわずか1年半。

まさねえちゃんの癌は、最終的とも言われる眼球にまで転移していた。

まさねえちゃんは、日本ではまだあまり例がないといわれる、癌での眼球摘出まで強いられたのだ。

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